著者
田坪 賢人
出版者
大阪市立大学大学院文学研究科 : 都市文化研究センター
雑誌
都市文化研究 = Studies in urban cultures (ISSN:13483293)
巻号頁・発行日
no.23, pp.29-39, 2021-03

17世紀は近世都市大坂の形成期であり, それに伴う都市社会の発展は, 膨大かつ多様な職人を生み出した。近世の畿内・近江において, 建築に関わる大工・杣・木挽は, 京都大工頭中井家の支配下にあり, 17世紀はその工匠支配の成立期でもあった。中井家支配下の工匠は地域ごとに組を結成し, …
著者
長尾 明日香
出版者
大阪市立大学大学院文学研究科 : 都市文化研究センター
雑誌
都市文化研究 = Studies in urban cultures (ISSN:13483293)
巻号頁・発行日
no.20, pp.3-17, 2018-03

植民地期都市行政へのインド人の参加を初めて可能とした「インド治安判事・陪審員法」(1832年)の成立は, インドにおける地方自治制度の端緒を形成し現代に至る議会制の重要な基盤の一つを構築したという意味で, 世界最大の民主主義国家といわれるインド民主主義にとって画期的な出来事であった。しかし, 現在に至るまで, 同法制定の経緯は明らかでない。本論は, イギリス議会において同法成立に尽力した議員の多くが, 1828年にボンベイで起こった最高裁判事連続暗殺事件の被害者の関係者(「ボンベイ判事の友」)であったことを指摘し, この暗殺事件の強い影響を受けながら同法が成立したことを明らかにする。この暗殺事件は,…
著者
張 振康
出版者
大阪市立大学大学院文学研究科 : 都市文化研究センター
雑誌
都市文化研究 = Studies in urban cultures (ISSN:13483293)
巻号頁・発行日
no.22, pp.53-65, 2020-03

千年以上の歴史を持つ広州の南海神廟は, 珠江デルタ地域における最も代表的な海神信仰の対象として知られるが, その信仰は複雑な変遷をたどってきた。南海神廟が形成された隋代以降, その祭祀は歴代王朝が天下四海を擁することの正統性を示す国家祭祀として行われた。ところがそれとともに, 広東の地域社会においても南海神信仰が形成され, そこでは民間信仰としての姿が顕著になるという転向が見られたのである。通説では, 宋代こそがそうした南海神信仰の転向の重要な画期であったとされている。しかし南海神信仰になぜかかる転向が現れ, その転向はいかにして成し遂げられたのかは必ずしも明らかにされてこなかった。本論文では, 宋代の広東地方官員による南海神の祭祀文を手がかりとして, この問題の解明を試みる。「中央」と「地方」の間に存在する地方官員の微妙な立場・位置づけに着目することにより, 広州の南海神廟祭祀を担当する立場において, 南海神信仰の転向・変容に大きな役割を果たしたことは言うまでもないし, 同時に彼らは珠江デルタ地域の民衆がいかに南海神を信仰するかについてもっとも適切な観察・記録者でもあると言える。宋代広東の地方官員に着目する考察により, 宋代における南海神信仰の転向という問題に新たな視点を示すことができるはずである。宋王朝による南海神の加封問題を考察して, 歴代の加封に関する理由と過程を分析することによって, 南海神信仰が宋代において画期的な転換を成し遂げた原因の一つは, 南海神を位置づける主導権が朝廷から広東の地方官員へと次第に移行ようになるということである。同時に, 広東地方史における南海神信仰に関する記載によれば, 宋代は南海神信仰が民間信仰として広東の地域社会で発展していく肝心の時期でもあると考えられる。
著者
金 甲鉉
出版者
大阪市立大学大学院文学研究科 : 都市文化研究センター
雑誌
都市文化研究 = Studies in urban cultures (ISSN:13483293)
巻号頁・発行日
no.22, pp.75-80, 2020-03

はじめに : 中国書院研究は早く1920年代から始まり, 2000年代に入ってからその数が爆発的に増加し, 2005年以降毎年200件程度の研究が発表されている。その動向について簡単にまとめると, (1)多くの書院関連資料の整理による研究土台の構築, (2)書院の教育機能への関心が高く, 特に書院の官学化についての論議が多いこと, (3)2000年以降, 書院研究数が顕著に増加するが, その内容においては既存研究の成果を踏襲するものが多いこと, (4)研究分野の多様化(文学, 娯楽面など), (5)既存研究の再検討(地域社会や仏教との関係)などの特徴があるといえる。その中で現今までの書院研究は大きく2つの問題を抱えている。すなわち, 第一は研究対象に関する問題, 第二は扱っている史料に関する問題である。……
著者
田端 拓哉 向井 有理子 宮崎 弦太 池上 知子
出版者
大阪市立大学大学院文学研究科 : 都市文化研究センター
雑誌
都市文化研究 (ISSN:13483293)
巻号頁・発行日
no.14, pp.70-79, 2012-03

都市社会学の知見によれば, 都市に暮らす人々は多様な社会的アイデンティティを持ちうることが推測される。本研究は, 多様なアイデンティティをもつことが, 個人の精神的健康にどのような影響を及ぼすかを, 大都市部の大学生を対象に検討した。先行研究では, アイデンティティ相互の関係が調和的な関係にあれば, アイデンティティ数の増加は精神的健康を促進するが, 葛藤を引き起こすような不調和な関係にあれば, 逆に精神的健康が阻害されることが示されている。しかし, それがどのようなメカニズムによって支えられているのかについては, まだ不明な点が残されている。本研究では, 自己複雑性理論の観点から, 多くのアイデンティティをもつことは, 自己の諸側面が相互に分化し数が増えることであるととらえ, その結果, ネガティブな事象に対する精神的回復力(レジリエンス)が高められるのではないかと考えた。自己複雑性が高ければ, ネガティブな出来事によって自己のある側面が傷ついても, その影響が自己の他の側面に波及しにくく, 残された側面の資源を動員することによって困難に対処しやすくなると考えられるからである。ただし, それはアイデンティティ相互の関係が葛藤を起こすことのない調和的な場合に限られる。189名の大学生が質問紙調査に参加した。調査の結果, 主要なアイデンティティ相互の関係が調和的であれば, アイデンティティ数の増加はレジリエンスを高めるが, 不調和であれば, アイデンティティ数の増加は, レジリエンスを低下させることが示された。主観的幸福感は, アイデンティティ数と調和性によって影響を受けることはなかった。したがって, アイデンティティの数が増えれば, 幸福感が高められ精神的健康が促進されるという単純な関係にあるのではなく, アイデンティティ数の増加は, ネガティブな事象の影響を緩和し精神的健康の悪化を予防するといった間接的なプロセスによって精神的健康の維持に寄与しているのかもしれない。最後に, 都市的環境と精神的健康の関係に関する研究の今後の方向性について言及した。